大阪地方裁判所 昭和46年(ワ)3859号 判決 1974年8月09日
原告
山田早苗
右訴訟代理人
黒田喜蔵
同
黒田登喜彦
被告
幸得まつ
右訴訟代理人
豊川忠進
主文
被告は原告に対し金三三万六〇四四円及びこれに対する昭和四八年一一月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを六分しその一を被告の負担としその余を原告の負担とする。
この判決の第一項は仮に執行することができる。
事実
第一 申立
(請求の趣旨)
被告は原告に対し金二〇〇万円及びこれに対する昭和四六年八月三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決及び仮執行宣言を求める。
(請求の趣旨に対する答弁)
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
との判決を求める。
第二 主張<以下―省略>
第三 証拠<略>
理由
一本件物件がもと裕国の所有であつたこと、裕国が被告から別紙借入金表記載のとおり、昭和三七年一二月二八日から昭和三八年八月二〇日までの間前後八回にわたり合計三四五万円をいずれも弁済期の定めなく利息月三分の約定で借受けたこと、裕国が昭和三八年一〇月二二日被告との間に右三四五万円の借受金債務を目的とし弁済期昭和三九年一月末日利息月三分の約定の準消費貸借契約を締結するとともに右契約上の債務を担保するため本件物件につき抵当権設定契約及び代物弁済予約を締結したこと、裕国が被告に対し右準消費貸借契約上の元本債務三四五万円を右弁済期に弁済しなかつたため被告が昭和三九年二月一一日裕国に対し右代物弁済予約完結の意思表示をして本件物件の所有権を取得し昭和四四年一〇月二七日本件物件につき所有権移転登記を了したことは、いずれも当事者間に争いがない。
二右の争いのない事実からすれば、右代物弁済予約は、債権者担保のためのものであることは明らかであるから、債権者たる被告が右代物弁済予約完結により本件物件の所有権を取得し所有権移転登記を了した場合、特に清算についての合意がなくても、債務者たる裕国は、被告に対し本件物件の評価清算による剰余分を清算金として返還すべきことを請求しうるものといわなければならない(最高裁昭和四二年一一月一六日第一小法廷判決、同昭和四五年九月二四日第一小法廷判決、同昭和四八年一月二六日第二小法廷判決等参照)。右評価清算の時点については、諸説あるが、本件物件につき所有権移転登記がなされたときと解するのが相当である。被告は、右代物弁済予約完結により本件物件の所有権を取得した際当事者間に本件物件の評価如何にかかわらず過不足は問わないこととする旨の暗黙の合意が成立したと主張するが、右主張を認めるに足りる証拠はない。
三そこで、被告が裕国に支払うべき清算金の額につき検討する。
(一) 本件物件の被告名義に所有権移転登記がなされた時点、すなわち、昭和四四年一〇月二七日当時における価額は、<証拠>によれば、約七〇〇万円であると認められる。
(二) 裕国の被告に対する前記準消費貸借契約上の債務の右当時における総額は、次のとおり、五三〇万四六八二円であると認められる。
(1) 借入金総額が別紙借入金表記載のとおり三四五万円であることは、前記のとおり当事者間に争いがないが、<証拠>によれば、別紙借入金表記載1、2、3、4、7、8、の各借入金についてはその支払のため満期をそれぞれ昭和三八年六月三〇日、同年七月三〇日、同年八月三一日、同年九月三〇日、同年九月一五日、同年一一月二〇日とする約束手形が振出され各借入日から各満期までの月三分の割合による利息計四一万五二八五円を天引され、同表記載56の各借入金についてはその支払のため振出日を各借入日とする小切手が振出され各借入日から約一ケ月後の月末までの右同割合による利息計三万一〇〇〇円を天引されたので、手取総額は、三〇〇万三七一五円であつたことが認められる。
(2) 次に、<証拠>によれば、裕国は被告に対し前記各借入金に対する右天引された分以後の月三分の割合による利息を昭和三九年一月分まで毎月初めないし中頃その月分を(但し、昭和三八年九、一〇月分については同年一〇月二二日)支払つたことが認められる。
(3) 右の天引利息及び支払利息が利息制限法所定の制限利率(元本一〇万円以上一〇〇万円未満の場合年一割八分、元本一〇〇万円以上の場合年一割五分)を超過するものであることは明らかであるから、右超過部分は当然前記借入金元本に充当されることとなる(最高裁昭和三九年一一月一八日大法廷判決参照)。従つて昭和三九年二月一日現在ないし前記代物弁済予約完結時たる同年同月一一日現在における前記準消費貸借契約上の債務の残存元本総額は、別紙計算書(一)記載のとおり、二八五万一一四〇円となる。
(4) 前記準消費貸借契約上の債務については、遅延損害金につき特に約定があつた旨の主張はないから、遅延損害金の率は前記利息制限法所定の制限利率(年一割五分)に減縮されるものと解すべきである(最高裁昭和四三年七月一七日大法廷判決参照)。従つて、本件物件の被告名義に所有権移転登記がなされた時点、すなわち、昭和四四年一〇月二七日当時における前記準消費貸借上の元本、利息、遅延損害金の総額は、二八五万一一四〇円及びこれに対する昭和三九年二月一日から昭和四四年一〇月二七日まで年一割五分の割合による計五三〇万四六八二円となる。
(三) 従つて、被告が裕国に対し支払うべき清算金の額は、右(一)の七〇〇万円と右(二)の五三〇万四六八二円の差額一六九万五三一八円となる。
四そして、<証拠>によれば、裕国が昭和四六年七月三一日原告に対し右清算金が約二三〇万円あるものとしそのうちの二〇五万円の支払請求権を譲渡したことが認められ、裕国が被告に対しその旨の通知をしたことは、当事者間に争いがない。<中略>右清算金は、前記のとおり実際には一六九万五三一八円しかなかつたのであるが、<証拠>によれば、右債権譲渡は、裕国の原告に対する約三〇〇万円の借受金債務の支払のためになされたことが認められるから、右の実際に存する清算金の支払請求権全部が譲渡されたものと認めるのが相当である。
五そして、原告が被告に対し昭和四六年八月三日到達の書面で右譲受にかかる清算金の支払を催告したことは、被告の明らかに争わず自白したものとみなされるところである。
六そうだとすると、原告は被告に対し譲受にかかる清算金一六九万五三一八円及びこれに対する右書面到達の日の翌日である昭和四六年八月四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払請求権を有する。
七ところで、原告は被告が本件物件の所有権を取得した昭和三九年二月一一日より以前から裕国から本件物件のうち家屋を賃料月額三万円で賃借していることは、原告の明らかに争わず自白したものとみなされるところであるが、その後被告が昭和三九年二月一一日本件物件の所有権を取得し昭和四四年一〇月二七日所有権移転登記を了したことは、前記のとおりであるから、被告は、裕国から原告に対する本件物件中家屋の賃貸人たる地位を承継し、右所有権移転完了の日以降原告に対し月額三万円の割合による右家屋の賃料の支払を請求しうるに至つたものといわなければならない。原告は、被告が原告に対し原告主張の清算金を支払うまでは、裕国は被告に対し本件物件を引渡す義務を負わず、従つてまた原告も被告に対し本件物件中家屋の使用収益の対価を支払う義務を負わないと主張し、最高裁判例を引用する。しかし、代物弁済予約形式の債権担保契約において予約完結権が行使された場合、債権者は、債務者に対し、清算金の支払義務を負うが、その反面清算のため当然当該不動産の所有権移転登記ないし引渡の請求権を有し、ただ、公平の見地から右両権利義務が引換給付の関係に立つわけであつて、被告の引用にかかる最高裁判決が判示しているのもまさにそのことであるが、そのことから更に進んで清算が結了するまで債務者ないし当該不動産の賃借人が債権者に対し当該不動産の使用収益の対価を支払わなくてよいというような法理は全く存せず、被告の引用にかかる最高裁判決もそのような点にまで触れるものでないことは全文を一読すれば明らかである。他方、被告は、前記家屋は他に賃貸するとすれば賃料月額六万二九〇〇円で賃貸し得べきものであるから、原告に対し右同額の割合による賃料ないし賃料相当額の不当利得金の支払請求権を有すると主張するようである。しかし、被告は、前記のとおり裕国から前記家屋の賃貸人たる地位を承継したものである以上、たとえ右家屋が他に賃貸するとすれば被告主張の賃料月額で賃貸し得るものであつたとしても、現実に賃料増額の請求をしていなければ、原告に対し裕国と原告との間で約定された賃料月額以上の金額を賃料としてであれ不当利得金としてであれ請求することはできないものといわなければならない。
八そして、被告が原告に対し昭和四八年六月二二日到達、同年一〇月二六日の本件口頭弁論で陳述の準備書面で昭和四四年一一月一日から昭和四八年一〇月末日まで四八ケ月間の前記家屋の賃料の支払請求権をもつて本訴請求にかかる清算金の支払債務と相殺する旨の意思表示をしたことは、本件記録上明らかである。右賃料の支払期については、特に主張がないので、民法六一四条本文により毎月末当月分を支払うべきこととなる。他方、右清算金の支払期は、前記支払催告により、昭和四六年八月三日到来したこととなる。従つて、右相殺により、まず、昭和四六年八月三日に昭和四四年一一月一日から昭和四六年七月末日まで二一ケ月間の右賃料支払債務と右清算金支払債務とが対当額において消滅し、その後は、昭和四六年八月から昭和四八年一〇月まで毎月末日に当月分の賃料支払債務と清算金及び遅延損害金支払債務とが対当額において(後者については遅延損害金、清算金の順に)消滅したこととなる。その計算関係は、別紙計算書(二)のとおりであつて、結局、清算金三三万六〇四四円及びこれに対する昭和四八年一一月一日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払債務が残存することとなる。
九よつて、原告の本訴請求は、原告が被告に対し清算金三三万六〇四四円及びこれに対する昭和四八年一一月一日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度でのみ正当として認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。 (露木靖郎)
目録
東大阪市小若江三六四番の二〇
宅地 119.00平方メートル
(三六坪)
右地上
家屋番号同所五五八番の七
木造スレート葺三階建共同住宅一棟
床面積一階 98.90平方メートル(29.92坪)
二階 98.90平方メートル(29.92坪)
三階 63.99平方メートル(19.36坪)
借入金表
番号
借入年月日
借入金額
天引利息額
手取金額
1
昭和三七年一二月二八日
六〇万円
一万八〇〇〇円
五八万二〇〇〇円
2
〃 三八年一月三一日
二〇万円
六〇〇〇円
一九万四〇〇〇円
3
〃 〃 二月一八日
一〇〇万円
三万円
九七万円
4
〃 〃 三月三一日
二〇万円
六〇〇〇円
一九万四〇〇〇円
5
〃 〃 四月二五日
五〇万円
一万五〇〇〇円
四八万五〇〇〇円
6
〃 〃 六月五日
五〇万円
一万五〇〇〇円
四八万五〇〇〇円
7
〃 〃 六月一〇日
一五万円
四五〇〇円
一四万五五〇〇円
8
〃 〃 八月二〇日
三〇万
九〇〇〇円
二九万一〇〇〇円
計
三四五万円
一〇万三五〇〇円
三三四万六五〇〇円
支払利息表、計算書(一)、(二)<省略>